近江アルプスとよばれる金勝連峰は、花崗岩の巨岩が露出した独特の風景を見せ、絶好のハイキングコースとなっている。その金勝連峰には東大寺の良弁僧正がが開いたといわれる金勝寺があり、その金勝寺の西部の山中に狛坂寺跡がある。狛坂寺跡には、現在、この磨崖仏とともに、石垣の跡が残るのみである。狛坂寺は平安初期に興福寺の僧、願安が伽藍を建てたといわれているが、詳細は不明である。 狛坂寺跡磨崖仏は、寺跡の南側の、北面する巨大な花崗岩石に刻まれている。高さ、約6m幅6mの岩肌に像高約3mの如来座像と像高約2.3mの菩薩立像2体を彫る。
格狭間入りの基壇の上の須弥座に結跏趺坐する弥勒菩薩と思われる中尊は、たくましい体躯で、威厳があり堂々としている。脇侍はやや腰をひねって、如来側の手を胸に、外側は下げる立像である。三尊とも半肉彫りであるが、立体感のある重厚な像である。この三尊の上部に2組の小さな三尊像と3体の小さな菩薩形立像を浮き彫りする。また、この磨崖仏の向かって左には別石の三尊像もある。
作風は朝鮮の新羅時代の南山の七仏庵磨崖仏とよく似ていて、花崗岩という硬い岩を加工する技術から考えて、渡来人系の石工の作と考えられている。
この磨崖仏を初めて見たのは10数年前のことであるが、何回訪れても、大きな感動を与えてくれる磨崖仏である。量感や迫力においては、熊野磨崖仏などに劣るが、威厳と優美さにおいてはこの磨崖仏に匹敵する磨崖仏は日本には見あたらない。 |