西大和の石仏(4) 平群町4 |
近鉄平群駅の北の吉備内親王墓や長屋王墓のある一帯が梨本で、梨本には古い石仏は見当たらないが、江戸時代のユニークな石仏が何体か見られる。その一つが梨本の西端にある戒勝寺の近くの辻堂に安置する如意輪観音石仏である。高さ120pの船型の花崗岩の石材に如意輪観音座像を厚肉彫りしたもので、如意輪観音石仏としては大型である。また、戒勝寺墓地には素朴であるが力強い表現の船型阿弥陀石仏がある。特にユニークなのは近鉄生駒線の線路際の薬師塚と呼ばれる古墳の前の薬師堂にある薬師石仏である。幼児のようなあどけない大きな顔の薬師如来座像の薄肉彫り像である。 梨本の東の矢田丘陵の麓の集落が三里である。その三里の念仏寺の近くに清水の湧く井戸があり、岩の傍らの岩に三体の阿弥陀如来と二つの種子を彫った磨崖仏がある。桃山時代、天正9(1581)の造立年号を刻む。同じく三里の安明寺叶堂には馬頭観音石仏がある。馬頭観音は関東や信州では多数見られるが奈良では単独像は珍しい。三里の南の集落は平等寺で、その南に椿井がある。椿井は嶋左近の居城として知られる山城、椿井城の入口にあたる集落である。その椿井の集落内の道脇に笠石を載せた弥勒如来の線彫り像がある。三郷町勢野の一針薬師笠石仏などにつながる、鎌倉中期の石仏である。 平群町一帯の寺や村の辻堂に四国八十八ヶ所霊場の本尊を彫った石仏が散在している。ミニ四国八十八ヶ所霊場として建立され信仰を集めていたものと思われるが、現在は巡礼する人はいない。信貴山奥の院の第1番霊山寺と2番極楽寺の霊場石仏を初めとして専念寺・地蔵寺・長楽寺・法念寺などにあるが、全貌はわからない。ここでは、梨本・三里・平等寺にある四国八十八ヶ所霊場石仏を紹介する。薬師石仏のある梨本の薬師堂には堂の右端に丸彫りの弘法大師像とともに66番雲辺寺の十一面観音像がある。方形の基壇の上に舟形の光背を背負い蓮華座に坐す十一面観音を厚肉彫りする。基壇に札所番号と奉納者、像の左右に像名と寺院名の刻銘がある。 薬師堂の近くの覆屋には地蔵石仏とともに同じ様式の2体の四国八十八ヶ所霊場石仏が安置されている。向かって左の像は大日如来で右の像は阿弥陀如来である。大日如来は61番香園寺像である。正面は狭い格子でおおわれ大きな前掛けをしているため、阿弥陀如来像はどこの霊場の石仏かわからない。三里の岩井の辻の地蔵堂には68番神恵院、 阿弥陀如来像が、安明寺叶堂の馬頭観音の隣には弘法大師像とともに72番曼荼羅寺、大日如来像がある。平等寺の春日神社には75番善通寺、薬師如来が祀られている。これらの像も梨本薬師堂の霊場石仏と同じ様式である。平等寺の春日神社と梨本薬師堂の霊場石仏は丸くてふくよかな顔の像で同じ石工の作と思われる。薬師堂の近くの覆屋の2体と叶堂の大日如来像は引き締まった整った顔の石仏である。 |